昔から、
「この人が言ってること、本当かな?」
と、思っていた。
葉先のような適当な言葉に、
「そうなんかなー」
と、思っていた。
長く話していると、
何だか辻褄が合わない。
最初に良かったと言ってた事が、
終わりの方には、違う話になってゆく。
「人の言葉は、ほとんど、反対語」
と、思っていい。
「助かったんです」
助かってはいない。
「ありがたいです」
ありがたくはない。
本当のことを言えない社会の中で、
出来上がった言葉を交わす。
本当の事など言おうものなら、
差別が始まる事を知っている。
そのまま受け取ると、
嘘の上に嘘で返す事になる。
だから、
言葉ではない察しの世界で、会話する。
年を重ねるほどに、反対語は増えていく。
誰にも、心配かけず、
誰にも、迷惑かけず、
一人で背負って死んでいく事を、
覚悟している。