最期の涙

姉、兄、私、妹、

3番目のいらん子として、生まれた。

軍人上がりの父は、男子を望み、

女子が生まれるたびに落胆していたと言う。

 

そんな訳で、

父が死ぬまで、心通わす場面はなかった。

 

幼い頃、私はよく泣く子であった。

大きな瞳から、滝のように涙が溢れた。

泣く事で、訴え、泣く事で、心を沈めた。

私には、意見を言う言葉はなかった。

 

学生時代は、一人で泣いた。

夢見る夢子で、映画を見ては泣き、

本を読んでは、泣いた。

 

すっかり大人になってからは、

悔しくて泣いた。

社会の理不尽に、怒って泣いた。

 

結婚してからは、

泣かなくなった。

母親になったら、泣いてはいけないと、

心に誓った。

隠れて泣いた日は、あったかもしれない。

 

60歳をすぎた頃、

長い事、泣いていない自分に気づいた。

「歳を取ったら、涙も枯れるの?」

悲しすぎて、泣けなくなった。

アホらしくて、涙も出ない。

 

70歳をすぎたら、

一度でいいから、誰かの胸の中で、

思いっきり泣きたいと、思った。

悲しかった事、

寂しかった事、

苦しかった事、

本当の気持ちを、伝えたいと思った。

 

誰をも愛せなかった自分に謝罪を、

それでも、生き抜いてきた自分に許しを、

最期にそばにいる人に、伝えたい。