お父さんが、壊れてゆく

数ヶ月ほど前から、

「最近、お父さん(夫である)の様子が、

おかしい。フラフラして歩かれへん」

と言う相談から、始まった。

 

もちろん、その時点では、

歳も84歳で、心臓の持病もあり、

身体的な 病を心配した。

 

循環器内科と、脳外科に、まず勧めた。

早速行ったが、以前と変わらずのデータ。

ほっとして帰ったのも、束の間。

 

「やっぱりしんどい!別の医者に行く」

と、言い出し、行く行かないの押し問答。

「血圧が170もある。大変や」と、

ますます、心配が募り、妻に当たり出す。

 

最初の頃は、

「ほんまに、ややこしいわ!

こっちが病気になりそうやわ!」

と、怒っていた知り合いも、

階段を転がり落ちるが如く、悪化していく、

夫を、どうする術もない。

 

夜遅く、

「お父さんが、どんどん、壊れていく」

と、本人より落胆した声で、電話がある。

 

もちろん、100歳まで生きたとしても、

死ぬまで、どこも悪くない人などいない。

 

ゆっくりと、坂を下っていく人。

自ら、何かがきっかけで、悪くなる人。

心配し過ぎて、頭がおかしくなる人。

その人の個性である。

 

若ければ、はっきりとした自覚症状があり、

出血しました。

意識を無くしました。

ひどい痛みがあります

と、疾病を絞り込める。

 

しかし、高齢者は、他人に迷惑をかけまいと、

誰にも言わず、我慢するので、

診察に行ったら、手遅れが多い。

 

「歳やから認知症違うん?

コロナでうつ病なったんと違う?」

 

そういわれると、プライドが傷つき、

暴言、暴力など無かった人が、暴走する。

大学を出て、大手の会社に就職して、

40年真面目に勤め上げ、立場を与えられて、

晴れて退職。

 

家族のために、家も建て子供を無事に育てた、

日本の典型的なサラリーマン人生。

あとは、豊かな老後をと、望んでいたはず。

 

人間の人生は、最期に息を引き取る瞬間まで、

幸せだったかは、判別できないのである。

未だかつて、絵に描いたような幸せな家庭は

お目にかかったことがない。

 

常に、危険予測をしながら、暮らしている位が

ショックが少なくて済む。

お父さんだけではなく、

いつの日か、誰もが通らなければならない道。

そして、人は、甘受せねばならないのである。