夜になり、
地道でゆっくりと帰るつもりだったが、
急遽、インターを通過した。
普段の土曜日なら、車の赤いライトが、
煌めく高速道路も、コロナの影響で、
不気味なほどの静けさである。
卓袱の闇の中、
フロントガラスの中に、
絵画のような、青い月が現れた。
私の心を見透かすように、立ちはだかる。
綺麗!と感じる前に、
奇跡のような登場である。
数年前、
縁あって出会った、
医療から見放された町で、
私に出来ることを決意して、
幾度も、通い続けた高速道路。
春になれば、
山桜が、満開になり、涼やかに流れる川。
美しい風景画のような山里に、
暮らす人々は、優しく、穏やかである。
しかし、心の扉は決して開こうとはしない。
近づけば、遠のき、
直視すれば、眼を伏せる。
意味深い歴史のなかで、
培われた防御本能と、閉鎖的な心、
踏みにじるように、開くことはタブーであり、
触れてはならぬ掟がある。
科学や医療を受け入れたいと願いながら、
人間を否定する。
それでも、私は赤い糸を手繰り寄せ、
諦めずに、側に居たけれど、
思いの届かぬ時間であった。
頑なな心に触れることなく、
微力な私を、感じながらも、
通い続け、走り続けてきた高速道路。
そんな私を、見届けるために、
忽然と姿を見せる、温かな月の光に
私は、悲しみを癒されてきた。
もはや、過去となった悲しみの町が、
車窓から、流れ去ってゆく。
今宵、
二度と出会う事のない、
「BULE MOON」
中秋の名月が来る前に、
「さようなら」を、伝えてきた。