30歳と言う若さで、
余命を宣告された男性がいた。
輸血によるエイズ感染である。
気の毒以外に言いようがない。
不慮の事故で、命は助かったが、
命を助けた輸血で感染した。
彼と共通の知り合いと、お見舞いに行った時、
「貴方のように、健康そのものの男性が、
行って欲しくない」
と、思わずそんな言葉を吐いてしまった。
アスリートで、真っ黒に日焼けした顔、
艶々とした肌、引き締まった身体、
その上、声も大きく、清々しい人である。
もう、すでに彼は亡くなっているが、
その時の私の言葉を、後悔し続けている。
健康そのものの友人を、立たせたくなかった。
私の中で、二人を差別したのである。
命を削りながら、必死で生きてる彼を、
苦しくて、悲しくて見ていられなかった。
「輸血しなければ助からなかった命、
おかげで、5年間の命を与えて貰いました」
と堂々と言いはなった強い人。
健康そのものを否定した、酷い言葉は、
二人を、傷つけてしまった。
私は私の勝手な思い込みで、
二人をつなぐ糸を、断ち切った!
と、今でも、心が痛んでいる。
彼は死ぬことよりも、最後まで、
自然に、自分らしく生き抜きたいと、
願っていたし、
友人は、素直な気持ちで、励ます為に、
「オッス!元気か」
と、笑って会いたかったと思う。
女は、いとも簡単に感情で、
言葉を発する。
思慮深く、優しい男達は、許すのである。
その健康な友人は、
歳は取ったが、未だ万年青年である。
亡くなった彼は、未だ30代のままである。
一回り上の私は、一人婆さんになった。
そして、その時の意地悪を、
「ごめんなさい」
と言わない頑固な私が健在している。