サヨウナラ

あなたが亡くなって、

20年以上が、立ちました。

思い出すのが嫌で、

名前すら、口には出しません。

 

薄情だと、思わないで欲しい。

あなたがいなくなった事を認めれば、

私の心は座屈してゆくから。

 

仕事で疲れて、ソファーに座っていると、

あなたは、そっと私のそばに来てくれました。

座れば、頭ひとつが、上にあるので、

あなたの肩に、寄り添うと、

ホッとして、癒されていきました。

 

私の独り言を、嫌な顔一つせず、

「フム、フム」と、黙って聞いて、

何があっても、

「あなたが正しい!」

という目で、私を見つめてくれました。

 

そんな、優しいあなたに、

私は、幾多の酷い仕打ちをしました。

亡くなってから、後悔と反省で、

私は生きた心地がしなかったのです。

 

犬たるもの、常に背筋を伸ばし、

人間の命令に従うべし!

働かずして、ご飯をいただける運命に、

感謝せよ!

私が、危険な目にあった時は、

勇敢に立ち向かい、守るべし!

 

ほんとに、穴があったら入りたいくらい、

傲慢で、わがままな人間でありました。

座れば、私より大きな身体のあなたなのに

私のストレスに耐え、

首を垂れて、

私を愛してくれました。

 

無条件で、

「大好きです!」

死ぬまで、

「あなたに仕えます!」

偽りのない言葉で、添い遂げてくれました。

 

三日三晩の看病で、

うっかり寝てしまったその隙に、

あなたは、静かに息を引き取りました。

 

私に、「さようなら」を言わない為に、

だから、私にとってのあなたは、

唯一無二の、永遠に一匹のワンチャンでした。

 

あれ以来、私は、

触りたくても触れない人間になりました。

「犬、お嫌い?」

と、言われても、うなづく私がいるのです。

 

もう、そろそろ、

「ゴンチャン!サヨウナラ!」

って、言ってもいいですか?