夜明け前のひと時

目覚めた朝、

まだ暗さの残る空に、

名残惜しそうな、下弦の月が輝いている。

 

しばし、

暖かな温もりから、離れがたく、

ベットから、月をながめていた。

 

満月のような力強さはないが、

なんだか、儚げで優しい光、

間もなく、やってくる太陽の光を、

避けるように、

遠く、小さく輝いている。

 

「疲れた?」

囁くように、声が聞こえる。

置き所のない身体のだるさ

すっきりしない頭の明暗、

自由に動かない手足、

もはや、誤魔化しきれない歳になった。

 

若さと言うチケットは、

使い果たし、手元には残っていない。

ずーっと前から、気づいていたけど、

コロナのおかげで、

「委ねてみよう」と、初めて思った。

 

「ねばならない」に、追いかけられて、

「無理」を重ねて、

「私の時間」を、起き忘れていた事を、

 

私の時間を取り戻すために、

「貴方は何が好き?」

「何がしたい?」

と、問われても、

真っ白な頭の中に私がいない。

 

本当の私を探し始めたら、

何処にもいない。

「食べ物は何が好き?」

「どんな花が好き?」

「どんなファッションが好き?」

そして、

「誰を愛していた?」

と、問われても、答えられない私がいる。

 

いつのまにか、

すっかり、周りは世が明けて、

朝の音が聞こえてくる。

 

一人ぼっちの自由な時間、

食べ物は今日食べるものが好き!

お花は、今日最初に見る花が好き!

ファッションは、今日の雰囲気が好き!

と言えるように、

今が一番好きかもしれない。

 

誰を愛したかは、

パンドラーの箱の鍵を、失くしたから、

未だ、思い出せないでいる。

愛したそのひとが、覚えてくれている事を、

願っている。