「じゃあ、また、明日、お疲れ様ー!」
と、
いつも通りの、別れの挨拶、
アクセルを踏み、
通いなれた坂道を走り出す。
今、
バックミラーから消えた人を、
心が追っている。
フロントガラスに、小さな雨音が聞こえる。
降り注ぐ雨と、悲しみの涙が、
嵐のように、風に舞う。
さりげない言葉が、苦しくて、
何気ない仕草が、よそよそしくて、
「寒くない?」
「大丈夫」
温かな言葉を、交わせなくて、
心が泣きべそを描いている。
二人は「今」を語らず、
お互いの過去のドラマに、共感する。
「へぇー、凄い!」
「あの時は、若かったから!」
少し、歯にかみながら、
笑顔で答える。
お喋りで、はぐらかし、
沈黙が、ものを言う。
一瞬の語らいが、永遠へと繋がり、
いつの日か、想い出と変わる。
夜空の星に癒されて、家路へと着く。
一生懸命働いて、自分で買った、
お気に入りのフランス車。
「デザインは、とても女性らしくて、
しなやかに見えますが、
メカは、とてもハードで男性的、
それが、フランス車の魅力です!」
と、営業の男の子が、
言った言葉が、頭をよぎる。
暴走しそうになる心を、
安全運転に導いてくれているのかも。
そんな遠い想い出も、
私の人生を、少しは彩ってくれている。