雨の日の思い出

行きつけの美容院に、

朝一で、飛び込んだ。

50年ほどの長い付き合いなので、

遠慮はなく、

「いきなりですが、カットして!」

 

私のわがままを承知の、女性の店長が、

快く、引き受けてくれる。

「遠慮しないで、バッサリいって!」

と、思いを伝えた。

 

「貴女が、カットを頼むときはいつも雨」

と、鏡の中で、笑ってる。

 

学生の頃から、

髪を短くしたことのない私が、

生まれて初めて、

ヘヤースタイルを変えた日があった。

 

夕方から台風警報が出て、

人々は足早に家路へと急いでいた。

 

スタッフも早めに帰り、

一人残っていた店長に、

「短く切ってほしい!」

ただならぬ私の様子に、

何も聞かず、快く引き受けてくれた。

 

私のショートヘヤーは、

彼女も初めての事、

鏡に映る私に、

「じゃあ、切りますね!」

「うん!思い切り短く!」 

と、頷いた。

 

台風の風の音と、ハサミの音だけが、

静かな店に、響いていた。

別人の様になった私を見つめて、

鏡の中の私が泣いている。

 

「メソメソ」としていた私を断ち切る為に、

次なるステップに、立ち向かう為に、

新しい私に変容する為に、

女は髪を切る時がある。