帰らぬ月

明け方の空に、

「帰らぬ月」が、佇んでいる。

 

激動の地球を、

心配そうに、眺めている。

 

太陽が、上がってくる前に、

伝えておきたい。

 

貴方が、どれほどの夜を越えて、

涙してきたかを、知っている。

大人の勝手で、一人ぼっちの子供時代、

 

厳しい父には、従順に頷いて、

頑なな母には、甘える事もできずに、

小さな魂は、いつも震えていたことを。

 

自分の事より、人の事、

周りばかりが気になる大人になってゆく。

良い子を装い、自分に嘘をついてきた。

 

「家族の絆」「永遠の愛」

ポスターみたいな綺麗事、

蹴飛ばしても、放り出しても、

戻り駒のように、離れない。

 

異邦人みたいに、飛び出して、

誰も知らない街で、姿を消せば、

後悔だけが、ついてくる。

 

泣きながらのかくれんぼ、

迷い道で、途方に暮れた貴方を、

朝まで、

「帰らぬ月」が、ついてくる。

 

貴方の無事を見届けて、

静かに、雲の中へと、消えてゆく。