タクシー乗り場のベンチで、
隣に、ゴージャスなFOXの毛皮を、
あしらったコートを着た女性が、
並ばれた。
季節柄、早めの装いに、
一瞬視線は集まったが、
後は知らん顔、
日本もいい感じになった。
一昔前なら、
なんだか違和感が漂う様な、
雰囲気が流れたが、
今の時代、
全裸以外は、なんでもOK。
フランスにいた最初の頃、
真夏に豹柄の毛皮、
真冬にノースリーブ、
慣れたフランス人は、目もくれない。
メトロに乗れば、
オペラの格好した、オッチャンが、
いきなり、朗々と歌い出す。
乗車客は、
微動だにせず、目もくれず、
聞いてないふりをする。
しかし、
歌い終わると、拍手喝采が、
車両に響き渡る。
「いいなー!日本やったら捕まるかも」
と、欧米の人達の大らかさに、
なんだか、心があったまる。
少し、裏道の小洒落たバーに、
連れて行ってもらったら、
店の中は、タバコの煙で、
何にも見えず。
それでも、人々は、
楽しく飲み、語り、歌う、
灰皿が、ないのに気づいたら、
なんと、吸殻は、ポンポンほって、
タバコで床ができていた。
日本ではあり得ない、
大胆な発想に衝撃を受けたこともある。
既成概念が、消えてゆく。
当時は、
「酒とタバコと恋」のパリ。
アンニュイな空気が流れる、
大人たちの遊び場が、
映画の世界、そのものである。
ルーブル美術館がある、近くに、
有名なcaféが、並んでいる。
ワンコインを、テーブルに置けば、
深くて、苦い小さなコーヒーが、
運ばれてくる。
目の前の交差点に、
ガブリオレのスポーツカーが、
赤で止まった!
素敵なイケメンが、手を振ったので、
手を振りかえしたら、
かの有名な、「アランドロン」
一瞬の夢か幻みたいな、白日夢。
遅れた国の遅れた女の子の、
大昔の旅日記、
それ以来、
パリに魅入られ、仕事やプライベートで、
行くうちに、
オードリーヘップパーンが、隣にいても、
パリ人みたいに、驚かなくなった。
10月の昼下がり、
タクシーを早めに降りて、
初秋のパリと、同じ冷たさのなかに、
「想い出」が、蘇る。
私の心のなかに、宝物みたいに、
いつまでも、輝いて残っている。