「松茸」の怖い思い出

まるで、

心を投影するかのように、

秋の空は、移り変わる。

 

秋といえば、

色とりどりの、秋の味覚が、

スーパーの店先に並ぶが、

足早に、通り過ぎる。

 

見間違ったかと思うほどの、

値札がついて、

セレブの食卓に飾られるのを、

待っている。

 

幼い頃、

父の田舎から、

毎年「松茸」が、山程届く。

「何なん?椎茸のお化けみたいなん!」

と、思ってた。

 

松茸のホイル焼き、

松茸の土瓶蒸し、

松茸のすき焼き、

最後に、松茸ご飯が添えられる。

 

松茸のなんたるかも知らん!

勿論、高級食材など、興味もない!

豚に真珠、

馬の耳に念仏、である。

 

「こんなの、食べない」と言うと、

父が、怖い顔して、

「口が腫れるぞ!」

「罰が当たるぞ!」

「二度と、食べるな!」

と、言うので、

ますます、喉が詰まり出す。

 

大人になって、

美味しい季節の、貴重な食材と、

わかってからは、

頂くたびに、

父の言葉が、頭をよぎる。

 

昔の人間も、子供のおとぎ話も、

脅したり、嘘ついたり、怖がらせたり、

子供達の躾のため、

我儘や、身勝手を直そうとした。

 

まだまだ、発展途上の、

貧しい日本の中で、

食べれるだけでも、奇跡の時代であった。

松茸を見るたびに、

父の怖い顔を、思い出すのである。