怪奇月食?
夜空を見上げれば、
いつもながらの、
美しい光を放つ月が、
すっかり、別の顔を見せていた。
皆既月食ならぬ、
「怪奇月食?」と、思うのは、
私くらいかしら。
140年前に、同じ月を見た人は、
この世には、一人もいない。
来たる65年後の皆既月食、
私にとっては、
今日が最後の、見納めの月。
宇宙のサイクルは、
何百年、何千年も、変わる事がない。
人間が成し遂げた、
科学や医学の進歩によって、
宇宙へ向かって、飛び立つ人間達、
宇宙の謎は、すっかり解かれ、
「神秘」や「奇跡」など、
もう、残ってはいない。
宇宙の法則を捻じ曲げて、
機能不全に陥った地球の姿を、
皆既月食が、
悲しみを映し出す。
科学や医学の進歩からは、
まだまだ、遠い人たちが、
地球上には、存在している事を、
忘れてはならない。
悲しい月を、抱きしめて、
太陽が、明るい光を放っている、
今日もまた、
変わらぬ朝が、やって来た。