「抱き締める事」を、しなかった

囁く様に、

「た、す、け、て」

の言葉が、送信されて来る。

 

非常に、聡明で、美しい人であった。

精神疾病が、

重なる様に、何層にもなって、

彼女を苦しめていた。

 

本来ならば、

病院での、治療が一番であるが、

天涯孤独のため、

自宅療養を、「自己決定」している。

 

しかし、

医学的には、どうみても、

専門家とは言えない、人達が、

介護、医療プランも、作らず、

チーム連携も、せずに、

365日、24時間、

側に、いた。

 

お金があるが故に、

民間事業所の、

看護、介護、家政婦を、

自費で、依頼していた。

 

冷静に、

自分の状況を、把握して

周りの魂胆、目的を甘受していた、

人であった。

 

手をさすり、

慰めて来る人間を、否定し、

真摯に向き合う人間とは、

論理的に、語り始める。

 

行政の障がい福祉課、

弁護士、

警察など、

守りの包囲網は、揃っていたが、

 

孤独と孤立の、

発狂する世界の中から、

一線を、超えて、

帰らぬ人と、なった。

 

あえて、

「抱き締める事」を、しなかったのは、

大切な人の代わりなど、

誰一人、存在しないからである。

 

探し続けた、

大好きな、お母さんとは、

この世では、会えなかったのである。