一人の人間が、
誰かを救う事は、
非常に、難しい。
しかし、
奇跡的にも、
違う道が、ある事を、
教える「きっかけ」には、
なる時もある。
知り合いから、連絡を受けて、
駆けつけた、玄関先に、
その人は、倒れていた。
頭下には、
お弁当の空き箱が散乱し、
あてがわれていた、
汚れたオムツが、異臭を放っていた。
認知症もあり、
身動きも取れず、
人を受け付けない、高齢者に、
お手上げ状態の、
無責任な、福祉事業所。
介護を拒否する、利用者に対して、
お弁当を、届けるだけのケアは、
どんな理由があろうが、
明らかに、「放置」である。
すぐさま、
救急車を呼び、身体を、動かすと、
背中の下から、
無数のゴキブリが、逃げ出した。
息を飲むほどの、
悲惨な状況から、
古い病院の一室の、ベットに運ばれた。
私は、
彼女の身内でもなく、
事業所の関係者でも、無かったが、
責任の所在や、
決められた制度を、
度外視しての、行動を取った。
其の後、風の便りで、
治療が施され、
「生活保護」制度により、
新しい住まいで、落ち着かれた。
在日でもあり、
言葉も心も、閉ざされたまま、
悲しみのなかで、
生き抜いてきたと、聞いている。
一瞬の出逢いの中で、
私は、彼女側に立ち、
病院や、事業所に、対応した。
お互いの、過去も知らず、
関係性も、無かったが、
細い糸が、手繰り寄せられて、
奇跡的な、出逢いであった。
今でも、
小さな「きっかけ」の、
一つとして、
私の記憶の中に、
大切に、保管されている。