「幻の一本桜」を、探し続けて

誰も来ない、山の中に、

「女神」と呼ばれた、

幻の一本桜が、あると言う、

 

春が、来る前に、

「本当に、行くの?」

 

真冬の、冷たい朝

部屋の前で、立ちすくみ、

「青い扉」を、

自ら開けた貴方が、去ってゆく。

 

止められない

「魂」が、

貴方の掌から、こぼれ落ちて、

涙に変わる。

 

たった、一度だけ、

幻の、

「女神」の一本桜に、

「出逢いたい」と、泣いている。

 

幾重にも、積み上げてきた、

貴方の過去を、元返し、

いつ、

どこで、

何を無くしたかを、紐解けば、

貴方の輪郭が、見えてくる。

 

男の子なのか、

女の子なのか、

大人か、子供が分からないままに、

 

彷徨う様に、

生きて来て、

「自分は、誰かを知りたい」と、

訴えてくる。

 

隠し扉の中の、

フェミニンなドレスを、

胸に抱いて、震えている。

「身につけて、良いですか?」

 

持て余すほどの、

聡明な知性が、

振り子の様に、心を揺さぶり、

誰の声も、聴こえない、

 

凛と、顔を上げて、

「生きて来て、良かったのでしょうか」

の、問いかけに、

「うん」と、

深く頷いた私がいる。

 

夜の帳の中へ、消えてゆく、

貴方の背中に、

「白い十字架」が、見えたのは、

私の、錯覚?

 

不釣り合いな、

明るい「春の日差し」が、

開け放された、

「青い扉」から、

朝の風が、吹き抜けてゆく。