憧れの「文学少女」には、ほど遠く

「おもちゃ」のない、

子供部屋、

 

壁一面の、作り付けの本棚に、

「あいうえお順」に、

並べられた、文学全集。

 

文学少女」だった母が

お金に厳しい、父の目を盗んで、

子供達のために、

残してくれた、

唯一の「遺産」であった。

 

母親のいない、家の中は、

火が消えた様な、

「暗さと、静けさ」が、

いつも、漂っていた。

 

「すくすく」とは、

育たなかった、少女の頃、

寂しさの中で、

最初に、手に取った、

「あ行」から、始まる、

芥川龍之介文学全集」

 

日が暮れるのも、

気づかずに、読み耽って、

そして、

生まれて、初めて、

「恋」をした。

 

顔も知らず、

年齢も知らず、

出逢った事も無い人を、

「好き」になったのである。

 

彼の描く小説は、

「深い思考」と、

「哲学」が、横たわる作品ではあるが、

読んだ後に、

背筋が、「ゾォーッ」と、

する様な、冷たさを感じていた。

 

比喩例えの様な、

非現実的な「物語」の中に、

人間の深淵にある、

闇の世界が、広がっている。

 

「リアル」な、

人間関係の、背景の中で、

迫って来る、訴えに、

「私のチャンネル」が、一致したのである、

 

本棚に並んだ、

日本文学全集、

世界文学全集、

世界の美術全集が、

「母代わり」に、私を育ててくれた。

 

よって、

「私を理解する」

大人達は、おらず、

「気心を分かち合える」

友人も無く、

厳しい現実と、夢の様な非現実の、

世界を、

往来しながら、大人になった。

 

振り返れば、

近代における、

メタバース」の世界感、

「仮想空間」の世界が、

小説の中に、存在していた。

 

70数年、

生きてきた中で、

憧れの「文学少女」の

イメージには、ほど遠く、

 

「夢見る夢子さん」と、

半分、バカにされながらも、

その片鱗は、

今も、私の中に残っている。