お身内の方ですか?

長年、別居中の夫が、入院した。
駆けつけると、看護師さんが、
「お身内の方ですか?どういうご関係?」
矢継ぎ早に聞かれて、少し間はあったが
「妻です」と答えた。
もはや、経済も別で、お互い独立独居で、
ただ紙の上の存在であったのに、このような事が起こると、社会の中では一瞬で夫婦に戻る。
お互い一人でいることに困らない関係であり、
距離を置いて付き合って来た。
こういう事も想定内ではあったが、現実的には
一応、れっきとした「妻」ですので、
相手は、書類を出したり、今後の説明をするのは当然である。
困っていると、息子が「連絡は全て、私に!」と、助け舟を出してくれて一安心。
日本国の中で生きて行くには、いい意味でも悪い意味でも、お身内の方以外は通用しにくい社会の仕組みにはなっている。
特に高齢になると、確固たる自分の代理人が必要になる。
お身内と言えども、いろいろ訳もあり、この人に任せるくらいなら、よっぽど他人の方がマシ!という関係もある。
親子、夫婦、兄弟であっても、殺人事件になる位だから、お身内が絶対ではない。
血気盛んな若い頃は、身勝手な正義感で走り、
最後の責任は自分が取れると思っていたが、
病で倒れた夫と、戸惑う妻との間で、
「いい加減にしてくれよ」と、愚痴1つ言わず
処理をしてくれる息子に頭が下がる。
病に倒れ、不安定な状態になった夫の腕を、
撫りながら、「大丈夫よ」と、声をかけた私は、妻でもなく、一人の人間としての言葉ではあった。
かけ間違えたボタンであることを認め、同じ苦しみと悲しみを味わって来たと思う。
取り返しのつかない過去ではあったが、別れを甘受し、いつの日か年老いて、自然淘汰されて行く事を望んでいます。