生きる事に飽きた老人達。

突如、食事を摂らなくなる老人達がいる。
特に男性が多く、若い頃から優秀で、一流企業に入り、それなりの成功を成した人たちである。
老化により日常生活が出来なくなり、家族から看取ることを拒否され、致し方なく介護施設がターミナルになり、工場のシステムのような暮らしになる。
朝6時起床、トイレ誘導、オムツ交換、7時順次、まだ薄明るい食堂で食事を待つ体制で席に着き、8時食事開始、9時食後の口腔ケアとトイレタイム、しばらく部屋で休み、11時から13時まで同じパターンで昼食タイム、終わると引き続きレクレーション(ほとんど体操とゲーム)14時に部屋に戻り休憩、15時にまた食堂に連れ出されおやつタイム、17時に同じパターンで夕食が始まり、トイレ、オムツ交換してそれぞれ部屋に戻り就寝。365日同じことが繰り返される日々。
「そりゃ、飽きますわ!生きてる事に」
生きてる事に飽きると、必然的に死ぬことを考える。
自分で死ぬ事もできない老人は、唯一できることは、食事拒否、レクレーション拒否である。
無理強いできない事を知っているので、徐々に衰弱して行く。
介護施設では医療処置ができないため、
限界がきて、病院に転院できればラッキーである。
魂胆があったり、計画的ではなく、無意識の本能が動くようである。
退院され、施設に戻ってこられると、なんだか旅行したようにすっきり気分。
なんの楽しみもなく、同じことばかりの暮らしに、頭もおかしくなり、飽きるのは当たり前。
どんなに歳を重ねても、時々こんな命をかけた冒険をする賢い老人達がいたことを、私は知っている。