一滴の涙も出ない

「誰か泣かしてー!」と言いたいほど、
最近、一滴の涙も出ない。
子供の頃から、涙腺が弱く、夕日を見ても、捨て犬を見ても、ドッジボールで負けても、よく泣いていた。
他に自慢するところは見当たらないが、よく泣くおかげで、眼だけはクリクリと大きく、まつ毛には、マッチ棒(今は死語です)が、五本は乗せれるような眼をしていたように思う。
開けっ放しの目なので、年がら年中、めばちこだらけ。
現在、幸せで、笑い飛ばすほどの人生でもなく、平均すれば不幸せな部類に入っているにもかかわらず、何が起こっても、何を見ても涙が出ない。
老眼から始まり、軽度緑内障もあり、その上に花粉症まで、発症。
涙で洗い流すことも出来ないから詰まってる?
思い起こせば、15年ほど前、愛犬が死んだ時、3日ほど涙が止まらず、授業が出来なかったことがあった。
鬼の目にも涙?に見えたのか、生徒たちが心配して、「先生、どうしたん?」と、聞かれ、
「ワンちゃんが死んだんよ」と言うと、わかるわーと一緒に泣いてくれた生徒もいた。
それ以来、本気で泣いた記憶がない。
いろいろ調べて見たら、涙の出ない病気や、脳の器質的な病気もなきにしもあらず。
よくよく考えてみれば、世の中や社会や人間関係にアホらしくなってきたような気もする。
自分以外のことが見え始めた3歳の頃から、眼に映るものすべてを、丁寧に受け止め、自分の事も他人の事も知っていくと、悲しみばかりがあまりに多くて、そのことに反応して、よく泣いていたのだと思う。
苦しみや辛さを、深く考えず、楽しいことや面白い事ばかりに目を向け出した社会や人間に失望しているのかもしれない。
ただ、時に、ひたむきに粛々と与えられた人生を、一生懸命生きてる人に出会うと、涙は出ないが、心の中で泣いている。