月の雫へ。

しっぽくの闇の中を、震えるような白い月の光を浴びながら、二人で歩いた。
「この場所、月の雫って言うのよ」と、妹が言った。
あの世の手前に連れて言ってあげると、石垣島に住む妹が、連れて来てくれた、電気も水道もない非日常の世界。
耳をすませば、静寂の音が聴こえてくる。
「私が死んだら、生まれ変わるから探してね」
「お姉さんは、永遠に、ずっーとお姉さん」
と、妹は笑って言った。
生きて見た、死の世界。
帰り道のない人生の終着駅は、思ったほどに、
悪くはない。
深い悲しみは悪意に変わり、辛さは強さに変わるような世の中の襞の中を、揉まれるように、
生きて来て、死ぬときに此処ならば、文句は言えない。
数十年の時が過ぎ、妹に尋ねたら、「そんなとこ忘れたわ。地図には乗ってへんからね」と、答えた。
私の記憶の中で、語り続けた真理と、奇跡の場所は、確かにあったことを覚えている。
いつの日か、一人で行かねばならない月の雫へ