男のプライド

部屋のドアを開ける時に、いつも、よぎるのは
「無事かしら?」
自ら、意志を持って、死に向かう人がいる。
自殺では無い。
人生をやり抜いて、高齢になり、持病が悪化して、自立ができなくなり、寝たきりが続く。
まだ、今の時代なら、死ぬには早すぎる年齢である。
特に、男性は、身体が動かなくなると、
同時に、メンタルな部分も壊れて行く。
地位と名誉を獲得した人は、変わり果てた自分の姿に悲観する。
一生懸命、真面目に会社のため、家族のために働き続けて、これで人生良かったのかと、
気づいた人も、後悔に苛まれる。
昔の武士なら、切腹という形で、男としての
プライドを辛うじて保ち、名を残す。
女から見れば、なんと愚かなと思うが
男の血の中には、この筋が残っているのかもしれない。
人間として、走り抜いた人生を振り返れば、
男も女も、決して満足はしないが、
自分の死が見え隠れしてくると、
覚悟を積み上げ、戦いである。
女はもともと、依存性が高く、執着の傾向性が強いので、死ぬまで頑張ろうとする。
潔く、死を受け入れると決意した人への、介護は難しい。
生きる事を、叱咤激励しても、かなわない。
「少しでも、食べましょう」
「水分を取ってください」
聞くわけがない。
食べない、飲まないのである。
死を選んだ人は、もはや後戻りはしない。
人間の真の尊厳を考えれば、最後の一瞬までも
叶えてあげたい気持ちもなくはない。
どんな形であれ、私は、生きている人には、
貴方の側で、優しい風のように、囁き続ける。
「生きて欲しい」と。