誰の紫陽花?

「私の為に、弟が、季節ごとに咲く花を、植えてくれたのよ」
リビングの窓から、見事に咲き誇る紫陽花が、
素敵な話とともに、目の前に広がっている。
枯れる前に、部屋のあちこちにも飾り、私にも、楽しんでと、切り花で頂いた。
数日後、
「もう、紫陽花を切らないでね。
弟が来た時に、皆んなが切った後を見て悲しむから・・・」
突然の落とし穴に、一瞬絶句!
みんなに、おすそ分けして、弟も喜んでくれると言っていた言葉は、いつの間に、ひっくり返ったのか?
元々、いつもニコニコと、綺麗事の多い女性ではあったが、時折見せる、蜂のひとさしが、昔から見え隠れしていた。
年老いて、身体も弱り、人の助けがなくては生きていけない状況になっても、この人の個性は、未だ、健在である。
「きゃー嬉しい!」と、庭のないマンションに住んでる私は、素直に喜び、ガラスの器に綺麗にいけて、楽しんでいた日々が、たった一言で、悲しい思い出になってしまった。
紫陽花を見るたびに、不快なエピソード記憶として残るだろう。
彼女が大切にしていた紫陽花を、
あげると言われて、無神経にも、何も考えず、もらって帰った私がいけなかったのかと、
しばらくの間、心に引っかかり、彼女のお世話を辞めようかと、小さな事に、落ち込んだのである。
恨みの連鎖の始まりは、こんなさりげない言葉から始まってゆくことを、知っている私は、
何事もなかったように、毎日、母の介護は、
継続している。
窓を開けて、「お母さん、紫陽花、綺麗に咲いてるよー」と、母を励ましているのである。