ニヤリと笑う

何故か、教壇や白板の前に立つと、
前に並んでいる人たちの表情が、よく分かる。
「さあやるぞ!」と思っている人、
「さっさと終わって!」と思っている人
様々であるが、私の講義は、まず自分開示から
滑り出す。
目が悪い為、近所の大きな犬に、人間と間違えて、挨拶してしまった話。
靴屋に寄って、家に帰ったら、何故かハンドバックに靴ベラが入っていた話。
ほとんど失敗談で、笑いから始まるが、
時には、悲しみで終わった残念な話をする時もある。
哀しみや苦しみは、人ごとではなく、皆自分ごとなので、眠気まなこが、一瞬で、真剣な眼差しになることが多い。
そんな中で、ニヤリと笑う人がいる。
声を出さず、大きな口を開けずに、笑う人は
見方によれば、ニヒルな人?冷静な人?とも取れるが、私はあまり好きではない。
時と、場所によるが、「ガハハッ」と、おばちゃん笑いの方が、豪快で気持ち良い。
憤りのない、どうしょうもない残念な結果に、
何故、ほくそ笑むのか?
「人の不幸は蜜の味」みたいなドラマがあったが、人間の深いところに潜んでいる悪意は、誰しも、持っている。
嫉妬、妬み、怨みなど感じていた相手が、
自分の知らないところで、自分の手を汚す事なく、失墜したり、消えねばならない羽目に落ちるような出来事があると、思わず、口元が綻ぶのか?
老いると自然に無表情にはなるが、やはり、若い時は、屈託ない笑顔が、一番美しい。
教養ある人とは、他者のつらさがわかる人とも言われているが、教壇の前で、教えることには限界があると思っている。