医者の廃業

「あの、若先生大丈夫?」
「大丈夫みたいよ。この頃患者さん増えてきてるから」
本当かいなと、不安になる。
今からこれから、私のために診てもらいたかったのに、何で辞めるんよ!と、ぐちもでる。
子供が、1歳の頃から、家族中がお世話になっていたドクターを、アイドルの追っかけのように、違う病院に行かれても、お世話になり続けてきた。
権威ある、外科のドクターにもかかわらず、おでき程度で、失礼にも診察してもらえた時代であった。
コネも効いたし、無理も聞いてはくださったので、紹介した患者さんは数知れず、助けて頂いた。
そろそろ、私もあちこちがややこしくなり、
検査をすれば、やばそうな箇所も出てきて、
「さあ、あの先生に診てもらおっと!」
と、安心して行ってみれば、
「〇〇先生は、退官されました」
聞いてはいたが、こんなに早く辞めるわないでしょと、がっかりとお先真っ暗になる。
歯の詰め物一つ取れても、どこの歯医者に行ったらいいのかわからず、ネットで探すが、何を基準に決めればいいかわからない。
昔、通っていた医院を探しはするが、知ってるドクターの名前はなし。
友人に聞いてみれば、とっくの昔に亡くなって代替わりという。
昔ながらの、どこの家にも親しい主治医がついていて、家族の揉め事までも、相談に乗ってくださる医者などいるわけがない。
「私が病気になったら、絶対に、先生が手術してね。それだったら、死んでも納得!」
と言えるほどのドクターには、残念ながら会えてはいない。
いくら、そのドクターの血筋を引いた息子さんであっても、不安ではある。
「立派な医者も人間。
病気にもなるし、死にもします。
貴方の為に廃業しないわけはない」
と言われても、ガタガタになったこの身体を、
どこに行けば直してもらえるのかを、考えあぐねている。