貴重な骨董品

お昼間でも、ガラス越しのランプ照明が、しっとりとした趣で、つい足が止まり、店のドアを開けた。
幹線道路沿いの路面に面しているのに、中は、
静かな佇まいである。
日本古来の茶器から、ヨーロッパの繊細な食器、昔ながらの伝統と技術で創作された美術品が、所狭しと並べられている。
埃まみれの古道具屋ではなく、さすが芦屋の老舗の骨董屋なので、ピカピカに磨かれて高級感は本物である。
値段ばかりを聞くのはばかられるので、尋ねはしなかったが、予想はできる。
不思議なのは、陳列しているものどれもが、懐かしく、年代はわからないが、見た事のあるものばかり。
実家の母は、かなり有名な家系の産まれなので、ここに売られているものは山ほどあっただろうと思うけれど、残念な事に、
「長男の嫁が古臭い物が嫌いで、あらゴミにほとんど出して、捨てちゃったのよ!」
と、言ってたのを思い出す。
古い物好きの私としては、がっかりである。
しかし、優しかった祖母が、私にあげてほしいと、黒檀の引き出し付きのタンスを、遺品で頂いた。
ギシギシと開け閉めのたびに音はしたが、広くて深い引き出しは、衣類がたっぷりと入り、長く重宝した。
昔の家具は、どれもが、大きく重さもあり、狭いマンション向きではないので、もう二度と手に入らないものとわかっていても、売られて行く。
最近では、イケアやニトリのようなシンプルで、組み合わせができる機能的、かつおしゃれな家具が簡単に安価で手に入る。
「あの結婚したときに持って来た洋服ダンス何とかならんかしら!ほんと、場所とって邪魔やわ!」
と、私の年代は、皆口を揃えて文句が出る。
最近は遺品整理や引き取りやみたいな商売もあり、家まで来てくれて、二束三文で買い取って行く。
まあ、捨てるよりマシかと諦める人も多いが、
知らぬが仏で、ものすごいお宝もあったかも知れない。
歴史ある素敵なコーヒーカップで、音楽を流しながら、ささやかで贅沢な時間を、私は、今も、大切にしている。