落ち込んでいる人には。

人は、たわいない事で、簡単に堕ちて、
落ち込んでしまう。
そうなると、肉体の動きも、脳の働きも一瞬で、停止する。
唐突に襲って来る不安感に、人はすかさず、
防御本能を発信する。
まず、こうべを垂れて、言葉を忘れた様に、口を閉ざす。
そして、安全な場所を確保して、温かな寝床の中で、手足を丸めて心と命を守る体制に入る。
外野席は、そんな姿を見て、なんやかんやと声をかけて来る。
「大丈夫?」
「力になるわ!」
落ち込んでいない人が、どんなに頑張っても、
堕天使は救えないのである。
固く閉ざされた世界は、決して闇ではない。
孤独ではあるが、吹き荒れる嵐から身を守る為の、精神性の高い光の中で沈黙する世界である。
掛けてはいけない言葉、触れてはいけない手、
同じ苦しみを共に味わい、側にいて待ち続けるだけの時間が過ぎて、
「お茶飲みますか?」
さりげない言葉で、問いかけてくる。
「コーヒーが飲みたい」と答える。
記憶が蘇った様に、いつも通りの日常が、始まるのである。
緊張の糸が、溶けて行く一瞬を受け止める。