家系図から消された人

粘土をこねる様に、一人の人間を陥れる作戦は、阿吽の呼吸で、いつからか始まって行く。
自分が善人になるための、防波堤、つまりは生贄を作らねばならない。
歴史小説を振り返っても、悪人と善人は見事に、設定されている。
三者が客観的に作るドラマには、罪はないが、リアリティの世界の中では、人間の醜い我欲によって、真実が隠されて行く。
ピラミッドの頂点に立つのは、支配と権力を持つ人間。
その証は、財である。
そして、財はいずれは罪に変容することを知らない人間である。
頂点に立つ男(女)の側にうごめいて、見え隠れする女(男)の企みを辿れば、見えてくる極悪の血筋。
血の流れの中で、無意識の不随筋が、見事に舞い踊る。
最前列の客席からは、決して見えないトリックを、同じ穴の狢たちは、拍手喝采で賛同して行く。
同じ匂いを嗅ぎ分ける様に、紡がれた糸で織りなす善人たちの真っ白な布の裏には、陥れられた人の魂の叫びが、浮き上がる。
さりげない日常生活、普通の家庭の中で、
繰り広げられてきた人生の中で、
見渡せば、家系図から、忽然と消されてしまった人がいることを、誰もが知っているのである。
そして、数百年を経過して、家系図の中に、
突然変異の様に侵入して来た誰かを、見つける日が来るのである。