遺品整理

この二日ほど、座る暇もないほど、忙しい日が続いていた。
夫の80年間の人生の後片付けに明け暮れたのである。
なんでもその場で捨てる私とは違って、ガソリンのレシート一枚残している人であった。
最近は、「何でも屋」みたいな業者が来て、買取から回収まで、全て片付けてくれる。
元来、整理整頓がストレス解消の私としては、
他人に任せるという概念はない。
今で言うところの、卒婚状態(簡単に言えば別居)であったので、一人暮らしの夫の物持ちには、拍車がかかったようである。
お互い、相手の持ち物は見ない、聞かない、知らないの関係であったので、まるで玉手箱のふたを開ける気分である。
もはや、堂々と触れれるので、後ろめたさはない。
ちょっと気になるものが出てくると、座り込んで見てしまうので、捗らないのである。
整理整頓の上手な、引っ越し屋のおばちゃんみたいな私であるが、身内の秘密を見るとなると時間がかかる。
45年近い結婚生活ではあったが、これほど、夫のことを知らない妻はいないだろう。
残された遺品によって、紐解かれて行く夫に対して、改めて一人の人間として見えてくるものがある。
家族に何も語らず、何も伝えず、言い訳もせず逝ってしまった頑固者として、死ぬまで貫いた人ではあった。
残された遺品の中に、誰も知らない素直で大らかな夫の姿が見えてくる。
「察してほしい!」と言われても、見て見ぬ振りしていた私が見えて来る。
優しい日差しの降り注ぐ座敷の中で、夫の80年を共に振り返る時間となった。