春一番の装い

今年の初め、まだ冬の最中に、春のダスターコートを買った。
折角のセール中に、除外品の春のコートが目にとまり、少し葛藤したが、どうしても欲しくて購入した。
10代の頃、オードリー、ヘップパーンに憧れて、映画の中の彼女のファッションが大好きであった。
三ノ宮の高架下で、よく似た生地を探し、デザインを思い出しながら、洋裁を習っていた姉に、恐喝に近い状態で作らせた。
「とにかくむずかしいとこだけやって!後は自分でするから!」
とかなんとか言いながら、ミシンのそばから離れなかったのを覚えている。
えげつない妹である。
何しろ、当時は既製服などお店では販売はなく、ましてや海外からの洋服など売ってはなかった時代である。
ダスターコートは、少し春めいて、少し冷たい風が吹く頃に、ピッタリの薄手のコートの事である。
海外では、ホロのスポーツカーに乗る時のコートとも、言われているらしい。
若い頃なら、もちろんベージュ色を買っただろうが、今の私は迷わず黒を選んだのである。
フードを取り外すと、少し甘めの襟がついていて優しい雰囲気である。
幅広のベルトは付いてはいたが、ウエストが55センチでは無いので、残念ながら無用のものにはなるだろう。
暖かかったり、寒かったりで冬のコートが手放せず、お気に入りの場所に、忘れそうになる程、長く掛かっていた。
今朝、目覚めたら、弾けるほどの温かな太陽の光と、冷たい北風が吹いていた。
白いブラウスに、少し薄めのブルージーンズを
装いダスターコートを羽織ったら、
「春が来た!」と、心で呟いたのである。
女性は、何歳になっても、新しいファッションを身につける瞬間は、嬉しいものである。