認知症の世界に寄り添う。

「お願い、匿って!」
四人部屋に、駆け込んで、空いてるベッドに潜り込む。
四人はあっけにとられ、私の上に、何枚も布団を乗せて、隠してくれた。
ところが、いきなり、
「この部屋には誰もおらんよー!」
「そうそう、誰も寝とらんよー!」
と、大声を出すので、一瞬で私の昼寝は、発覚したのである。
それでも、私を守ろうと一致団結の精神である事は、確かである。
誰かの為に役に立ちたい心は、忘れない。

「あの人、必ず、私の胸を触るんです!セクハラだと思います!」
と、デイサービスの介護員が、黄色い声で訴える。
90歳のお爺さんを、犯罪者にはさせたくなくて、アドバイスを一言、
「触られる場所にいるからでしょ?貴女から、抱きついてあげたら、触りようが無いとおもうけど?」
この世界の中では、加害者にも被害者にもさせてはいけないのである。

「死にたい、死にたい!」
と、毎日泣いてくるおばあさんの手を引いて、
「家に帰ろうか?」
と促すと、泣くのを辞めてついてくる。
少し、せっかちな月が出ている夕暮れに、
「本当に、死にたいねー!苦労ばかりで、もう、私も生きてるのが、嫌になってきたわ」
と、悩みを打ち明けると、
「あんた、若いのに早まったらいけんよ!
いつか良いこと、きっとあるよ」
と、思わぬ優しさに、自己嫌悪。

認知症の人達が、住む館の中で繰り返される会話である。
悪意のない嘘や、過ぎたる対応が、彼らを守り、私達は、尊厳を学ぶのである。