施設の中の暗闇

有名な介護施設で、また、職員の利用者に対する暴行が発覚した。
一部始終を隠しカメラでとらえ、テレビで報道されていた。
目を覆いたくなるような場面であるが、残念ながら、このような事件はどんな施設の中でも、少なからず横行している。
「おたくの施設では、一件も虐待はありませんか?」
と、問えば、ありませんと言いきれる職員は、
一人もいないだろう。
事件が起こるたびに、何故、このような恐ろしいことが、怪我人や死人が出るまでわからなかったのか?
「みんな、知っているはず」
そして、誰が犯人であるかも。
夜の帳の中、部外者が立ち入れない塀の中で、出来事は起こっている。
何十人を、一人、もしくは二人で介護に当たるのである。
彼、もしくは彼女が、夜勤に入った次の日には、寝たきりの高齢者や、重度の認知症の高齢者の身体に、紫色の痣を見つける時がある。
若い人達と違い、高齢者の皮膚は傷つきやすく、少し当たっただけでも青黒い痣が浮き上がる。
だから、慎重に丁寧に扱うのが基本であり、
「車椅子に移乗するときに当たりました!」
「〇〇さんが殴ってきたから、手で止めたら、痣ができました。」
問い詰めれば、多分そう答えるだろうが、
誰も気がついていても言わないし、よほどの怪我でない限りは、申し送りはしないのが常である。
「あなた方は、知っているはず」
暴行している現場を直視しなくても、どの職員が、普段から暴行につながる行為や言動をしているかを。
介護は密室のケアと言われ、人道的倫理観を持ち、弱者に対する尊厳がはっきりと根幹になければ、いつそうなってもおかしくない場面である。
性善説である福祉の世界で、あり得ないこととして見て見ぬ振りをする。
発覚しても、施設の中で隠蔽する。
犯人として言い逃れができなくなると、その施設は解雇になるだけで、懲戒免職はなく、資格剥奪もなく、次なる施設に流れて行く。
人手不足で、精一杯働いている職員に対して、
技術は教えても、人間学は教えないのである。
目も見えず、物も言えない弱者がこのようなひどい事件に巻き込まれることは、最も悲惨ではあるが、介護する職員も人間である。
悩みもストレスも抱えたまま、誰にも相談できずに、壊れていく人もいる。
「職員のための相談室」も、設置はしてあるが、名ばかりである。
上っ面ばかりの綺麗事が、通る世界ではない。
どんな美しい言葉を並べた立派な施設にも、
悪意の種は、横たわっている。
本当に、豊かな老後を過ごすためには、根本的に覆さなければならないルールがある。
今の所、政治家も、行政も、施設や事業所も、触れようとはしないのである。
考えだすと、吐きそうになる話である。