住まいは最上階

出来るだけ高いところがいい。
バカとなんとかは高いところが好きと言われても、致し方ない。

マンションに住むならば、最上階。
最低5階はあってほしい。
出来るだけ、太陽や月や星に近づきたい。

たとえ、どんなに狭い部屋であっても、窓から見える景色は、果てしなく広がっている。
まるで一枚の絵画のように、私の物である。

人間の生き死にに関わる日々の中で、
「もう、嫌だ!」
と、何もかも投げ捨ててしまいたいと思う。

地を這うようなこんな仕事を、なぜに選んでしまったのか。
死に逝く人を、絶望の中にいる人を看なければならない世界から、逃げ出したい。

疲れ果てた夜、真っ暗な部屋の中で、窓から見える月の光が、星の優しさが、私の魂を癒してくれる。

「前に進めなくても、高みに向かって進んでいるから、大丈夫!」
と、励ましの声が聞こえて来るのです。

あれから数十年。
仕事も辞めて、足の悪くなった私は、階段のない一階の小さな部屋で、暮らしている。

あの時に見た月も星も、今は見えないけれど、心のなかで輝いている。