人生はあっという間

60歳、還暦を越える時は、意外と簡単に、ひょいと一跨ぎする。

周りは、
「とうとう、赤いちゃんちゃんこやねー!」
とか、冷やかすが、本人はさほど応えてはいないのである。

まだまだいける!
足腰はやられてはいないし、容姿も、化粧とファッションしだいで、なんとかなるわ!
と思っている。

ところが、それからの10年の早い事。
子供も独立したり、結婚したり、孫ができたり、そして何より、待望の年金暮らしがやって来る。

ガチャガチャしてる間に、気がつけば70歳を越えている。
明るい蛍光灯の下で、鏡を見れば、
「あんた、誰?」
みたいな、おばあさんが映っている。

もはや、ごまかしきれない歳になった。
痛い、痒いは老化現象ではあるが、経験もしなかった大病に見舞われる年齢である。

親の介護や、夫の病気で振り回されて、
老老介護で、心身ともに疲れ果て、あっという間に老婆と化す。

「もう、ダメ、限界!こっちが死ぬわ!」
と思った頃に、親も夫も天国に召されるのである。
悲しみも無くはないが、見送る大役を終えて、
心のどこかで、ホッとする。

いよいよ一人ぼっちにはなったけれど、残された自由な時間を
「さあ、これからは自分の為に何をしようか」
と、奮い立つ。

と、思う頃には、「後期高齢者」のカードが、市役所から届くのである。
人生は、とても短いのである。