お婆ちゃんも昔は女

もう、時効になるほどの年月が過ぎているので、良い思い出に変化してると思う。

世の中が、バブリーだった頃、夫は企業戦士で、会社のため、国のために、朝から、夜中まで死ぬほど働いていた時期であった。

そんな頃の妻は、お給料も潤沢にあてがわれ、ほとんど働く主婦はいなかったのである。
子供達を幼稚園や小学校に送り出した後は、
世話好きの人の家で、お茶にお菓子に、果てはランチまで一緒に過ごすグループもあった。

「夜中まで帰ってこないんやから、シングルマザーみたいなもんよ!」
それほど寂しさも見せず、ギャーギャー夫の悪口から始まるのである。

なんでも言えて、お互い助け合えるくらい親しくなっていくと、自分のシークレットの話題もちらほらと、一人が言い出すと皆同調して、人の噂から、自分ごとまで、まるでテレビのワイドショー並みである。

また、そんな話が、暇な奥様方には、すこぶる官能の世界である。

「主人と主人の親友とゴルフ旅行行った時ね。主人が寝てから、朝まで彼のお部屋にいたのよ。」
「エーッ!うそー!、こわい!!」
と、一人が告白すれば、

「アルバイト先のこと、若い社員と、出張兼ねて、東京まで蜜月旅行に行ったよ。」
「エーッ!子供はお義母さんに預けて?キャー信じられへん!」
と、現実的な話になる。

最後に、大人しく、夫を敬い、どこから見ても良妻賢母の奥様が、恥じらう様に、
「高校生の時から付き合っていた男性と、結婚してからも、今も、ずっと付き合い続けてるのよ」
もはや、具の根も出ないのである。

「そんなん一部の人たちよ!」
という他の妻たちの嫉妬の嵐も、彼女達にとっては気持ちよく、さらに磨きがかかるのである。

70歳を越えたおばあちゃん達の心の片隅に、
子供にも、孫にも言えぬ秘密の花園が咲いている。

子供を立派に育て上げ、可愛い孫達にも囲まれて、夫の残してくれた資産で、悠々自適の老後生活。
「さあ、お爺ちゃんの御墓参りに行くよ」
と、先頭切って歩く姿を、子も孫も見て育つのである。

一人の男性に嫁いで、半世紀。
妻である前に、母である前に、嫁である前に、熱き血の通った女性ですもの。

「良いんじゃないですか?儚いドラマがあったとしても、長い長い人生の中では。」
と、私は思う。