鏡の中のお付き合い。

数年ぶりに、懐かしい女性と再会した。
思わず、手を取り合い、元気である事を確かめ合った。
若い頃に初めて行った美容院の美容師の女性である。
今も、第一線で、働かれていると言う。
同じ年頃でもありながら、彼女の接客、技術は
若い頃から、並外れたものであった。
あれから何十年、芦屋の一等地に店があり、
古くから、芦屋マダムを魅了し続けて来た。
私も、その一人で、首から上は彼女任せできたのであるが、仕事の都合で、ここ数年、足を運ばなくなっていた。
彼女のオーナーであるマダムの理念は、徹底したお客様第一主義。
予約は取らず、来られた方から順次対応であり、美容室の中では、コーヒーにケーキのおもてなしから始まり、マッサージに足浴と髪結いの間中、温かなサービスが付いてくる。
お客様一途のマダムは、どれほどのサプリメントから美容機具、医療器具などの実験台になって来られたかわからない。
自分で試されて納得したものしか、お客様には勧めない。
品格のある美を提供され続けて来た、美容室の鏡の中だけの世界。
それぞれの悲しみや喜びのドラマがあり、その主人公を、黒子に徹して支援されて来たのである。
ヘヤーを飾るだけではなく、鏡に映し出される涙を受け止めて、頷きながら、美しく仕上げて行くテクニックは、美学である。
「先生も歳を重ねられ、美容室のなかをゴソゴソ掃除とかされてるのよ」
と、彼女は優しい笑い顔をした。
懐かしさと年月は比例して、私達を変えていくが、鏡が繋げていた糸をスマホのメールに繋ぎ変えて、
「お互い、仕事を引退したら、ゆっくりお茶でもしましょう!」
と、約束して別れたのである。
70歳を超えても、頑張り続けている彼女と、
テーブルを挟んで、向き合ってお茶できる日が来る事を望んでいる。