一人暮らしの妄想

だまし討ちのような冷たい風。
温かな部屋の窓からは、まるで春のような陽射しに、少し薄手のコートを羽織って出かけた事を後悔した。
用心深い性格のわりには、時々大胆不敵な私がいる。
「そんな薄着で大丈夫?」
と、周りに言われて、歳を忘れた行動をする。
「辛い、辛い」と、手足が叫んで、慌てて靴下を履く有様である。
おん歳を考える前に、もはや、あちこちガタがきてる事を承知しているにもかかわらず、頭が追いついてはいない。
二歳くらいに自分という存在を知り、その頃からの記憶が今の私と交信を繰り返す。
奇想天外、天衣無縫の自叙伝を書き綴れば、かなりの枚数にはなる歳にはなったが、昔からちっとも変わらない私がいる。
姿形と等しく老いては行かない魂が、それぞれの高齢者の中に存在している事を知ってほしいと願っている。
寝たきりになっても、認知症になっても、押せば答えるボタンがある。
いつの日か、優しい若者の手の中で、私の物語を話せる日が来るのだろうか。