ババローグ

60代には、まだ老化を感じてはいなかった。
朝の目覚めもすっきりと、手早く準備をこなして、仕事に飛び出していた。
8時間の講師業を、難なくクリア。
夜には、人とのお付き合いで、楽しい時間を謳歌できていたのである。
始まりは、70歳が目前に見え出した頃、
「おかしいな?なんで、こんなに眠いのかな」
外出先からもどり、ホッとしてソファに一息つくと、部屋が薄暗くなるまで気がつかず、爆睡状態。
倦怠感と脱力感で、動きが鈍い。
常に格子状に区切られて、直ぐに反応できる脳が停止している。
「空っぽ!」状態。
心が焦り、心拍数が高くなる。
バタバタ、ワサワサ暮らしから、少し人間らしい、ゆとり暮らしにチャンネルを変えたことが、裏目に出たかも知れない。
仕事を減らし、人間関係を絞り、自分のための時間を作りたい。
音楽を聞いたり、買いっぱなしのままの本を読み、後、10年の区切りをつけて、
「美しく老いる」
は、私にはミスマッチであった。
そんなフレーズは、立派な主人に恵まれ、
経済的にも安定し、優雅な運命を約束された人の老後である。
「貧乏暇なし」の私には、
残念ながら、人のプランニングはしてきたが、
自分の人生のプランニングは出来ないでいる。
福祉の制度の中で、溢れ出る、救いきれない弱者の人達の悲劇と絶望。
自分の無力さ、追えない結末、
「もう、疲れました」
と、言うには早すぎたようである。
歳を重ねても、何か出来ることはあるかも知れない。
静かなる始まりである。