大雨の中で。

数年前の夏のある日、えりちゃんが亡くなった。我が家のラブラドールである。親切な獣医さんが、私が家をあける仕事をしていたため、病院に長期預かってくださっていた。動物霊園には埋葬せず、お庭が広かったので、昔から我が家は自宅埋葬で連れて帰り、雨の音に紛れて、ひとしきり、大泣きした事を覚えている。
40キロ近く体重がある大きなわんちゃんだったので、金魚を埋めるようには行かず途方にくれて降りしきる雨を暫く眺めていました。
その時、息子がバスタオルにえりちゃんを丁寧にくるみ、いとも簡単に胸に抱きかかえ、庭に出て行き、穴を掘り始めたのです。幅1メーター深さ1メーターかなりの重労働、その上土砂降りの雨。普段から大袈裟にわんちゃんを可愛がったり、そばによれば黙って頭を撫ぜる程度の息子が「家に入っとき!」と、私に叫んで、一人で黙々と埋葬してくれたのです。何故か、男の子を産んで良かった!と思うと同時にこの人が私の息子で良かった事を感謝した瞬間でもありました。あまり言葉を交わさない親子でしたので、同じ悲しみを共有できる人であった事を、えりちゃんの死によって教えられました。