女が髪を切る時

「明日、髪の毛を、耳が見えるくらいに、切って来れますか?」
3秒以内に、瞬時に答える禅問答の研修会に行った時、唐突に言われた。
1、2、3、「はい、切ります!」と、思わず答えた自分にびっくり。
若い頃から、髪の毛を、肩より短く切る事など
考えた事もなく、あまりお化粧には、手間もお金もかけなかった分、美容院だけは、時間があれば行っていた。
人と会う仕事が多く、長い髪の毛は一つ間違えば、貞子のようなイメージになりやすく、
髪の毛だけは、プロにお任せであった。
この時の、研究テーマは、確か「女の執着と依存からの脱却」
見事に、私の執着心を見抜かれたのである。
返事はしたものの、困ったな。
女性ならわかってもらえるが、ロングとショートでは、ファッションまでもガラリと変わる。
なんやかんやと勿体をつけながら、私は、なんで髪の毛を、50過ぎまで伸ばしていたのか?(この時は50代位でした)また、切ろうとは思わなかったのかを考えていた。
男性から、女にしとくのは勿体ないとか、思い切りがいいとか、あまり女としては嬉しくない褒め言葉を頂いていたし、気がつけば、周囲は女性ばかりが集まってくる。
もはや、ここまで来たら、引きもどせない性格に抵抗して、せめて髪だけは女としての存在感を誇示したかったのかもしれない。
心理学的に見れば、もっと深く、複雑な精神状態が浮上してくるので、これ以上、追求はしたくない。
明らかに、執着心と依存症?
あいにくその日は、台風が来て、行きつけの美容院は、早じまい寸前ではあったが、すぐに飛び込んで、私担当の美容師さんに、「カットして!耳が見えるくらい切って!」と言ったら、
血迷ったかと言わんばかりの表情をしたが、私が本気なのと、何か訳があるのだろうと察して、「分かりました。任せて!」と、切り出した。バッサリ切ったら、かなりのインパクト。
鏡の中の私は、出会ったことのない私になって変身。
もちろん、何十年の付き合いの美容師も私のショートヘヤーは見た事も無いので、皆寄って来て大喜び。
「すぐ、伸びるやん。」と、人は言うけど、髪の毛に依存している人は、女で無くなるが如く泣きだす人もいる。
私は、髪の毛を切ったことより、自分の中の、さほど大事でも無いものに、執着したり依存していた思いを、カットできたことが嬉しい。
女の髪の毛は命と、昔から言われてはいたが、
命の方が断然大切と、分かったのです。