お風呂のある国

随分前ではあるが、海外はあちこち行った。
何故か、お風呂とトイレにかなりの違いがある
特にお風呂は、どの国も温かなお湯が出てきた試しがなかった。
ひねれば水か、チョロチョロか、出ないかである。
若い時だったので、冷水が出ると「ギャー!」と、一声あげて、あきらめた。
しかし、今なら、高齢者は、ぎゃーでは済まず、ピーポーピーポーで救急車に乗るかもしれないのである。
シャワーをジャージャー出して、風呂場を温めて、血圧が変動しないようそろそろ入る。
「さら湯は体に悪いから、だめよ」と言って、父が一番風呂に、入らされていたのを、不思議ではあった。
そんなこと気にもせず、ピカピカに磨いた素っ裸の身体を、痛いくらいに澄みきった湯船に浸かる瞬間、私はこのまま死んでもいいなとさえ感じる。
ストレスがあっても、疲れていても、魔法のドームのように、入れば、官能の世界。
頭も身体もドロドロに溶けてゆく。
生きててよかった!病気でなくてよかった!
お金がなくても、幸せー!とまで思うのは、
単純バカかもしれない。
世界には、お水が出ない、出ても飲めない国が山ほどあり、東南アジアの国の中には、川で洗ってと言われることもある。
それなのに、日本の水道は、蛇口に口を当てれば、そのまま飲める水が出て、電気やガスが、ボロボロの長屋でも、お風呂だけは沸かせる。
日本人が清潔と言われる所以である。
女優が、美しい足を伸ばして、入れるような小洒落たお風呂ではないけれど、湯船の前に何故か、等身大の細長い窓がある。
ここを開ければ、湯船の私は丸見えのはず。
しかも、一階なので、開ければ隣の芝生?
ここに住んで一年が経つが、未だ開かずの扉。
一見、すりガラスのようなこの窓には、夜にはどんな図柄が浮かんでいるのか、気にはなる。
入るたびに、一度は、この観音開きの窓を、開けてみたいと思っているが、開けた瞬間に、おっさんが立ってたり、誰もいなかったりしても、夢が壊れるかもしれないので、やめとこー。
ただのお風呂で、これだけ幸せになる人間も珍しい。