最後まで独り暮らしがしたい。

寂しさを胸に抱いて、駆け抜けた厳しい冬を、
すっかり忘れてしまうほどの春の風が、
開け放した窓から、希望の光とともに吹き抜けて行く。
永遠へと続く、螺旋の道を選んだ事。
未来は前ではなく、常に上にあると信じて来た事。
戸惑い、揺れ動く心が、静謐な部屋の中で、リセットされて行く。
長い年月、終末の在りかを探すための旅も、
そろそろ終わりに近づいている様な気がします
手に入れたものは、必ず失い、待ち望んだものは来なかったけれど、悲しみを味わったことが、これから年老いて行く私の大切な記憶になって行く。
たくさんの無理をして、倒れて行く身近な人たちがいる。
「今日は!私のことわかりますか?」
言葉も発せず、無表情で、私を見ている目が、「知ってるよ」と、訴える。
あんなに元気で、独り暮らしを謳歌していた人が、いつの日にか、自立ができない状況になる事は、確かな事実である。
風の便りで、心身が弱った事を耳にして、
近寄らなかった身内が、お世話する他人が、
ベッドに横たわる本人のそばに来て、
「大丈夫ですか?頑張ってください。」
小さな部屋だが、住み慣れた空間、ひと息の無い研ぎ澄まされた空気が、一瞬で澱んで行く。
今まで、見にも来なかった長男夫婦が、
これからは、「お世話するのでなんでも言ってくださいね!」と嬉しそうな顔で言う。
「言わないと分からないなら、せんといて!」
介護度がついた独居老人を囲んで、本人の意向も聞かず、ケアプランが決められて行く。
介護保険も、医療保険も使わないから、ほっといて!」
ベットの中で、お布団かぶって、寝たふりしてると、透き通る様に、人の心が見えて来る。
たとえ、寝たきりになっても、年老いても、
私を理解してくれる人が一人でもいれば、ちっとも寂しくなんか無いのです。
月や星や咲く花を眺めながらの素敵な一人暮らしを、もう少しだけ続けたいと、願っているかもしれません。