白いカラス

衝撃的な映画であった。
講演会の朗読に使うバックミュージックを、
いつも探していた。
語りの根幹を伝えるために、音楽は最高の、
援護射撃になる。
講演会のタイトルは、先に音楽と出会い、
決まって行く。
白いカラス」は、先に映像と出会い、ストーリーがわかってしまったので、かなり悪戦苦闘して、朗読の文章を作ったのを記憶している。
初老の男と若い女の、ただのラブストーリーとたかをくくっていた私に対して、見終わった時には、返り血を浴びるほどの至高の愛のドラマであった。
映像も暗く、画面の奥にもう一枚の画像があるような錯覚に陥るほど、深い悲しみが見え隠れしていた。
それ以上に、画面を覆うほどの切ない、言いようの無い虚無の様なテーマソングが繰り返されて、風の様に流れていた。
何年も経つ今でも、目を閉じれば、音楽が聞こえてくる。
誰も、生きて来た過去の中に、言葉に置き換えられないほどの、無数の傷があり、隠し通して来た秘密がある。
愛する人と出会わなければ、本人の死とともに葬られ、消えて行く。
黒人の両親から生まれたにもかかわらず、
白い肌に生まれた秘密を隠して生きて来た男と
白い心に、癒されることない無数の傷跡を持った女が、人生の扉が閉まる寸前に、出会ってしまったとしたら、人間はどんな行動を起こすのか?
「死ねば終わる。」と思っていた魂は蘇り、
愛の中で浄化されようと、救いを見出す。
ドラマの結末は、追われる様に二人は死んで行くが、魂は永遠に解放されて、旅立っていく。
人生の中で、大切な人たちと決別しなければならない場面に、数多く遭遇する。
運命は、悲しみも苦しみも容赦なく、真正面から向かってくる。
たとえ、親子であっても、同じ運命、同じ宿命ではないとすれば、あの時、私に見せた一瞬の後ろ姿が、もう二度と戻れない分かれ道だったかもしれない。
大切なことを、秘密にしていた事を、伝えられないままに、遠くに離れてしまったあの日。
今からでも間に合うならば、伝えておきたい。