大人げない大人

「大人げないなぁ」
冷ややかな声で、小学生くらいの男の子が、呟いた。

麗らかな春の市民グラウンドのテニスコート
数人のジュニア達を相手に、ボールを送るレッスン中の出来事である。

若いコーチが、子供達の群れの中に、ものすごいスピードで、最後の球を撃ち込んだ。
「このボール、お前達に取れるか!」
と言わんばかりのトドメのような球である。

撃ち込んだ後のコーチの顔に、薄ら笑いが浮かんでいた。
そんなコーチの態度を眺めていた男の子の、吐いた言葉に、衝撃を覚えたと言う。

同じテニスクラブでコーチをしている初老の友人の話である。
「ちょっと、ぞっとするくらいの怖さがありました。」
と言われていた。

たかが子供と思うなかれ。
子供達は、細部に至るまで大人達の態度や言葉を、小さな身体で受け止めている。

純粋な心は大人の悪意を、リトマス紙のように浮き彫りにする。
「大人げない」
まさか、子供が使うような言葉ではないが、知っている。

私たちの時代は、はっきりと大人と子供の世界は切り離されていたが、今は違うのである。
テレビやパソコンやスマホの中で、シークレットの世界まで、子供達は開けることができる。

世界の果てで、小さな子供達が飢えて死んでゆく様も、そして、その原因を作っている大人達の狂乱も、じっと見据えている。

子供達に教える側の私たちにとっては、深く考えさせられる場面であった。
恥じない大人の行動を、していかねばならないのである。