財布忘れても、スマホ忘れず

窓の、カーテンを、

押し退ける様に、

過ぎ去った、台風の風が、

吹き抜ける。

 

暗闇から、脱出した様に、

太陽の光と、青空が、

広がっている。

 

「未曾有の台風」

と言われて、

身構えていた心が、安堵する。

 

昔から、

「台風と秋」は、ワンセット、

被害が、落ち着かない内に、

優しい風が、吹いて来る。

 

遠くに、聴こえる、

秋祭りの、太鼓の音や、

暑さで、焼けた緑の葉が、

色づき始める。

 

「昔はね」

とは、言えない程の、

自然や世の中の、変容に、

老人は黙るしかない。

 

何もかもが、

極端になって、

うっかり、発した言葉が、

差別用語」に、該当する。

 

「男子たるもの!」

「女性なら!」

みたいな、枕詞は、禁句である。

 

テレビの、

デジタル化された、天気予報も、

「よう、分からん」のである。

 

ヤン坊、マン坊」の、

昔の天気予報、

「晴れ、曇り、雨」マークが、

簡単明瞭で、懐かしい。

 

針で示した、時間から、

数字で表す、時計に変わり、

「よう、見えん」時もある。

 

「日めくりカレンダー」も、

姿を消して、

走馬灯のように、過ぎ去る月日に、

いつの間にか、

スマホに慣れた私がいる。

 

分からん事なら、

知りたい事なら、

話したい事なら、

スマホ一つで、片付く世の中、

 

「後生大事」に、

「肌身離さず」、

財布忘れても、スマホは忘れず、

 

こんな、

小さな機械の中に、

「一番、大切なもの」が、

本当に、入ってる?

一人暮らしの老婆が、呟いている。