「お金がないのは、罪ではないですよ」
と、その人は、静かに言った。
私は思わず顔を上げて、
「ほんとやわー」
と、当たり前のことに、感心した。
周囲を見渡しても、生活困窮者がいない。
自分の常識の範囲以外は、非常識。
そんな見方を、無意識でしていた自分に、
その人のさりげない言葉で気づいたのである
その意識の先に、偏見と差別がある。
特に、お金の威力は、日本では大きい。
10年ほど前から、お金持ちの人を、
セレブという言葉で、テレビが言い出した。
「落語家が、長屋に住んでへんのは、
落語家やおまへんで!」と
と言った人もいたが、今や芸人さんは、
憧れの的になり、国立大学を出た人もいる。
そんな身近な人が、タワーマンションに住み、
外車に乗り、美しい女優さんと結婚する。
そして、日本のセレブと呼ばれる。
アメリカンドリームみたいなもんである。
ちょいと手を伸ばした所に、
セレブになるチャンスがあるなら、
川にも飛び込むし、裸にもなる。
これもまた、この人たちの自由である。
チャンスがあっても、裸にもならず、
粛々と、与えられた運命を受け入れて、
お金とは縁の薄い暮らしをしている人もいる
今もコロナ対策で、一瞬で経済困窮者に、
陥る人もいて、国の制度や法律の中で
救済措置が行われている。
私自身も、仕事柄、頭の中は、
「救済は国がする」と、観念になっていた。
人を助けるのは、マニュアルだけではない。
何も出来なくても、
支えるのは言葉でもできる。