神秘の世界が残っている。
夜明け前、
明けの明星に、導かれる様に、
高速道路を走り、
家路へと向かっている。
若かりし頃、
人の生死に、関わる仕事に就き、
昼夜を問わず、
無我夢中で、働いていた。
化学、医学の、
目覚ましい進歩により、
すでに、
死の謎は、解かれていたが、
人々の魂の中に、
神秘的な意識が存在している事を、
確信していた。
「悲しい死」への抗いから、
「神様、救ってください」
と、心の叫びが、聞こえていた。
「生老病死」の法則の中で、
終末期は、最も困難な山場となる。
医療措置で、命を繋ぎ、
生きている証には、なるが、
魂を、救う事が出来ないでいる。
寿命を
永らえるだけの措置ではなく
魂に触れる様な、会話、
伝えておきたい言葉、
一緒に笑い、泣き、議論する、
時間を作れなかった、
後悔が、残っている。
スピリチュアルに関しての、文献を読み、
あらゆる宗教の講義を聞いても、
真理には、たどり着けない、
何かがあった。
年老いて、動けなくなった、
生の私が、
目の前に、横たわっている。
同じ想いをして、
初めて知る人の心、
最期に振り絞る、勇気と覚悟に、
静かに、共感が流れる。
何故か、
亡くなられた人は、
手の平を合わせる、合掌ではなく、
祈る様に組んだ手を、胸に置く。
神秘の世界は、残っているのである。