傷が、棘に変わる時。

深い傷を持つ人達の前で、

私は、ただの薄っぺらい人間になる。

経験しない限り、理解できない深い傷を、

触る事が出来ずに、狼狽えている。

 

生まれ落ちた時から、

右往左往する家族の姿や、

人々からの目線を通して、

自分を、推し量るしかなかった

その人達の運命。

 

私の流す涙は、失礼にあたり、

私の笑みは、下手くそな女優に見える。

 

時が経っても、笑い事にはならない傷を、

乗り越えて、振り返ることのない傷を、

私の手では、届きさえしないのである。

 

身体に負った傷、

精神に負った傷、

何も出来ず、救う術もなく、

見続けてきた。

 

私に話せる傷は、傷ではなく、

話して、癒せる傷は傷ではない。

本当の傷は、その人と共に成長し、

傷は、尖った棘に変容する。

 

興味本位で触れば、

相手が出血する事を知っている。

本当の傷持つ人は、言葉は交わさず、

その場所からは、動きはしない。

 

謙虚というバリアの中で、

誰にも見せない傷を、抱きしめている。

それでも、そばにいるだけの私が、

その人の対象物となって、

存在している。

 

いないよりは、いる方がいい?

と、傲慢な私がいる。

そういう私の中の傷も、

長い月日をかけて、茨の棘になった。

 

傷も身のうち、愛してやれば、

美しく、成長していくかもしれない。