親という過去を、振り返らずに

「行ってらっしゃーい!」

「行ってきまーす!」

と、無邪気に交わした言葉が懐かしい。

 

可愛い子供達の笑顔が、

大人になって行くたびに、

悲しみに変わって行く。

 

たまに会うと、

「元気で、良かった!」と、ホッとして、

肝心な事は、やっぱり聞けずに、

くだらない、呑気な母親のフリをする。

 

別れる時に

「風邪ひかないようにね!」

と、大きな声で、思いを伝える。

息子の大きな背中が、小さく頷く。

会う度に、

「最後かな?」と思うのは、歳のせい?

 

本当は、

「貴方は、今、幸せですか」

と、聞いておきたい母親の私がいる。

 

ちっちゃな手で、

私の手をしっかり握って離さなかった、

あの頃が蘇る。

挫けそうになる私を、あのちっちゃな手が、

支えになって、ここまで生きてこれた、

「感謝」を伝えたくて。

 

言ってしまえば楽になる事も、

私の心は軽くなる事も、

わかってはいるが、死ぬまで言わない、

母親の私がいる。

 

重い十字架は、私の中に抱きしめて、

「好き放題の母さん」で、

子供達の前から、消えて行く。

 

親という過去を振り返らずに、

まっすぐ、未来を見据えて、

「若い力で、精一杯生きていってほしい」

と、願ってやまない。