「幾つものトンネル」を越えて

あえて、

高速道路を走らずに、

地道を選んで、

田舎のスーパーへ、向かっている。

 

華やかな都会色から、

移り変わる風景が、

車窓に流れてゆく。

 

粉雪舞い散る中、

深い緑の山河が、

グレー色に染まってゆく。

 

先端医療から見放されたこの町で、

1年間、居を構えて、

人々との交流をはかり、

田舎の人々の笑顔の向こうに、

頑なに、閉ざされた思いを知った。

 

時代は流れ、

美しい景観は、今も変わらず、

心を癒してくれるが、

引き継がれた悲しみの血統も、

変わらずに在る。

 

与えられた場所として、

ありのままの、人々の優しさを

受け止めて、

タイムスリップした町との別離。

 

「幾つものトンネル」を越えれば、

いつも通りの、

遠くて、小さい都会の月が見える。

 

無力な自分を知り、

自分自身の、

魂の癒しの、終着駅であった事を、

今も、忘れずにいる。

 

そして、

心が折れそうになった時には、

「幾つものトンネル」を、越えて、

タイムスリップすれば、

あの美しい町に、たどり着くのである。